硫黄島からの手紙

2006年アメリカ、141分

監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、井原剛志、中村獅童
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/

2008年10月2日

この映画、見る前に私はものすごく感情的になってしまっていたのですが、その割にというか、そのせいでなのか、見てみたらすごく静かで、涙の一粒も出ませんでした。自分が何をどう思っているのか、自分でも分からないような、頭が真っ白なような変な感じなのです。それが悪いとか、期待はずれとかいうことではなくて、ただ、すごく意外でした。ぶわーっと感情的になることはなかったんだけど、でも飽きることもなかった。戦闘や自決のシーンで破損した肉体の生々しい映像もいくつもあったのに、いつもだったら怖がって顔を歪める私が、何故か落ち着いてじっと見つめていた。それで、クリント・イーストウッドってスゴイ監督だったんだな、と思いました。放っておいても感情的な題材を、よくここまで静かに撮れたな、と脱帽しました。

私は普段はあまり戦争映画を見ません。気になるんだけど見ない、見ないというか見られないというか。でも、この前ディカプリオの「ブラッド・ダイヤモンド」を見て、もう少し戦争を扱った作品を見たくなって、少し前から書店で見かけて気になっていた「硫黄島の手紙」をチェックしたら見たくなったのです。あ、ついでに、私は映画を見る前に設定や誰が出ているかなどの情報をある程度チェックします。そういうことを意図的にせず、なるべく何も知らないで先入観なしで見ていた時期もあるけど、最近は予備知識を得てから見ます。で、公式サイトの記事を読んでいたら何度も泣きそうになりました。

まず、太平洋戦争のあいだに起こった硫黄島の戦いそのものが泣かせるじゃないですか。日米の戦力の差から日本軍は五日しかもたないだろうと言われていたのを、一ヶ月以上耐えたのです。その持久戦を指揮したのが渡辺謙さんが演じる栗林中将でした。彼の部下は典型的な当時の軍人たちで、「戦力の差はあるけど、我が日本軍には絶対的に有利な点がある。それは腰抜けのアメリカ軍にはない強靭な精神力だ」なんて冗談のようなことを本気で(多分)信じさせられていたり、「潔い死」ばかりを願っていたり(だからもちろん持久戦には向かない)、そんなんだったんです。それを、一ヶ月もたせたんです。すごい。渡辺謙さんは、凄みのあるキツい役もうまいけど、今回は部下への言葉遣いも柔らかい「〜しましょう」みたいな(太平洋戦争中の軍人ですよ?)、そんな人物を自然に演じてました。

それから、硫黄島で彼らが書いた手紙が近年見つかったという事実も泣かせるじゃないですか。その手紙をキーにすることで、そして米軍兵が持っていた母親からの手紙を効果的に登場させることで、クリント・イーストウッドは「どちらも同じ人間だった」ことを伝えていました。手紙の内容が、塹壕掘りにウンザリしているグチだったり、日本に残した家族のためにお勝手のすきま風をなんとかしたかったとか、硫黄島で生まれたヒヨコが育ってきて畑を荒らすとか、妻や子に会いたい思いだったり、あまりにも平凡で、そういうものが繰り返し語られたために、映画全体が静かに感じられたのかもしれません。私の母も、庭で生まれた鳥のヒナのことを手紙に書いてきたことがありました。だからもし、これが自分たちだったら・・・そういう風に彼らを理解することができました。

アメリカ人が監督したアメリカ映画なのに、アメリカを善、日本を悪とすることはなく、その逆でもなく、ここまで日本人をきちんと描いたことにも拍手を送りたいし、感謝したいです。クリント・イーストウッドはまず「父親たちの星条旗」の準備をしていて、資料を調べるうちに、日本軍側も描かないと片手落ちになると思い始め、その思いが「硫黄島からの手紙」を生んだそうです。そんなことを思ってくれたのも嬉しいですよね。

私ははじめ、「星条旗」の方を先に見ようと思っていました。いくら監督が日米双方を描いた点で公平だったとはいえ、「手紙」を先に見たら、日本人の自分が日本軍に感情移入しすぎるんじゃないかと思って。私は戦後何十年も経ってからの生まれだし、世界大戦での敵国を憎む気持ちは皆無ですが、それでもなんだかそういう気分になっちゃうのかな?と思うと怖かったんですね。でも、公式サイトを見ているうちに「手紙」の方が気になって、「星条旗」を先に見ても集中できないと思ったので「手紙」を先に見たのですが、見てみて監督の公平な視点が実感できました。クリント・イーストウッドは、日本が善玉の映画とアメリカが善玉の映画を作ったわけではなさそうです。どちらが悪いわけでもない、という映画を二本作ったみたいです。

と、いうわけで、次は「父親たちの星条旗」を見る予定です。

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