王妃マルゴ

1994年フランス、144分

監督:パトリス・シェロー
主演:イザベル・アジャーニ

2008年9月5日

んー。衣装が楽しかったです。やっぱり歴史物は目を楽しませてくれますねえ。主演のイザベル・アジャーニも美しかったし。そして、典型的な王侯貴族の権力争いや陰謀や・・・。いつもいつも、そういう中に生まれなくてよかったと思う反面、そういう中で生きた人達のことは気になる私。その面でも楽しみました。

映画は静かなアカペラで始まります。黒い画面に白い文字で、クレジットに続いて表示されるのは時代背景。

マルゴ

「1572年。フランスはヨーロッパ中に巻き起こった宗教戦争によって国内が分裂していた。カソリックとプロテスタントは長い年月、戦い、殺し合っていた」。

16世紀後半、ユグノー戦争と呼ばれる36年にも及んだフランスの宗教戦争のさなか、状況打開のために政略結婚させられたのが物語の主人公、王妃マルゴことマルグリット・ド・ヴァロワ(1553-1615・右)です。

マルゴは絶世の美女だったということですが、肖像を見る限りそうとも思えないんですよねえ。うーん。私はそこでいちいちひっかかってしまうのですけど、まあ、多分、きっと本当に美人だったのでしょう。で、兄王達(フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世)との近親相姦のうわさに始まって、数多くの男性遍歴があったようです。

アンリ4世

1572年、カソリックのマルゴは従姉妹のプロテスタント、ナバラ王アンリ(左)と結婚します。彼は後にマルゴの代でヴァロワ家の直径が断絶したあとにフランス王位に即き、アンリ4世として現在に至るまでフランス人に愛され続けている人気のある王様になりました。ただ、この映画の中ではまだ弱い立場の人で、結婚式が終わらないうちからマルゴに「キミの家族はボクを殺すんじゃないか」「ボクを憎まないで」などと言い、マルゴに冷たく「私、アナタと寝なくてもいいんですからね」「今晩は私の部屋に来ないでよ」なんて言い返されています。マルゴには結婚したかった相手がいて、結婚初夜もアンリに「来ないで」と言う一方で彼を部屋に呼びます。

この夫婦は実際に公に愛人がたくさんいたらしく、夫婦としての関係を築く間もなくサン・バルテルミの虐殺(二人の結婚を祝うためにパリに集まっていたプロテスタントが大量虐殺された事件)が起き、幽閉されたり別居状態になったりしました。最終的には離婚するのですが、友好関係は保っていたようです。ね?王侯貴族の人生というかメンタリティというか、私の理解を超えたものがあるんですよねえ。

映画の中でも、マルゴにしてもアンリにしても、たびたび理解に苦しみました。愛し合っていないのは明白なんだけど、妙にお互いに庇おうとしたり、幽閉状態のアンリが自分の国に脱出するのにマルゴを連れて行くことにこだわったり。マルゴも愛人の助けで幽閉から逃れられそうになるのに、アンリが一緒じゃないからって戻って来たり。分からない分からない。

カトリーヌ

二人の政略結婚をアレンジしたのがマルゴの母のカトリーヌ・ド・メディシス(右)でした。インタリアの名門メディチ家の出身で(メディシスはフランス語読み)、息子達が幼少時に即位したので、長い間摂政としてフランスの国政を牛耳った女性です。

カトリーヌを演じた女優さん、うまかったと思うんですけど、本当に気持ち悪かったんですよ。カトリーヌこそが常に陰謀の中心にいるような役柄で、夫のフランス王アンリ2世はすでに亡くなり、常に喪服に身を包み、あれはファッションなのか分かりませんがおでこが禿げ上がってしまったように広くて、唇にも色がなく、亡霊が歩き回っているようでした。

ユグノー戦争は単に宗教上の対立だけではなくて、それを利用した権力争いもからんでいました。映画ではカトリーヌがその典型にも見えて、息子王への影響力を保持しようと必死なんだけど、表面上は「国の平和のため」「戦争を終わらせるため」なんて言いつつ、あれこれ策略を練るわけです。まま、カトリーヌだけではなくて、ほとんど全員が何かというとカソリックだのプロテスタントだの言って争っているわけですけど。マルゴの夫になったアンリも自身と王位を守るために改宗に改宗を重ねたり。マルゴもプロテスタントから「カソリックの売女」なんて呼ばれてるしね。ふう。

シャルル9世

カトリーヌの息子達のうち映画の中で目立った存在が、ほぼ全編で王位に即いていたシャルル9世(左)と終わり頃に即位したアンリ3世です。

シャルルは心身共に弱かったそうですが、映画の中でも常にどこかはずれていました。ああいうのが王様となると、国民の皆さんも大変でしたよね。そのシャルルを横目で見つつ、虎視眈々と王位を狙っているようなのが弟のアンリ3世です。

映画の中の二人はいつもボサボサの汚れたような髪で、衣装の着方もだらしなかったです。多分、それが現実だったんだろうけど・・・。あの頃の人達がお風呂にあまり入らなかったのはよく知られた話だし。服も、直接肌の上に切るシュミーズと多分下着以外は洗うことはなかったらしいし。ただ、その不潔さを見せるのがフランス映画だなあ、という感じがしました。アメリカ映画って汗とか匂いとか、あまり感じないようなさわやかなものが多いでしょう?全部じゃないですが。日本映画はどうかな。やっぱりキレイな気がするというか、日本人がもともとお風呂に入る清潔好きな民族という気もするし。

「王妃マルゴ」にはセクシャルなシーンも出て来るのですが、それを見てセクシーな気分になるか、もしくは甘い気分になることはなく、「あんなにドロドロな男に触られるのやだな」とか、そういう心配をしてしまいました。(書いてるいまも、気がついたら眉間にシワが寄っていた)

ところで。

アンリ3世

映画の「王妃マルゴ」が描いているのはマルゴの60年余りの人生のほんの一部で、結婚からアンリ3世(右)が即位するまでの2〜3年程度です。映画を見ているときは登場人物がみんな30代くらいの、オトナもいいところの年齢かと思っていましたが、見終わって調べたらマルゴが結婚したのは19歳、相手のアンリ4世は18歳でした。イザベル・アジャーニは40歳直前に19歳を演じたことになりますね。彼女の美貌と可愛らしさ、透明な肌の美しさをすれば、ハタチ前後に見えなくもないんだけど、まわりの男性陣には無理がありました。アンリ4世は40くらいに見えたし、シャルル9世は20代前半だったのに、30代後半くらいに見えました。

まあねえ・・・。あれだけの大作なんだし、役者もしっかりした演技のできる人達を揃えた方が見応えもあるだろうけど、でも、陰謀だの策略だのに慣れ切ったようなオトナ達の物語に見えるか、それに振り回されているコドモ達の話に見えるかは、割と大事なことだとは思うんですよねえ。10歳で即位したシャルル9世にしても、実験を握っていた母カトリーヌから独立しようともがく様を、30代くらいに見える人が演じるのと実年齢の20歳くらいが演じるのとでは、説得力というか見る側の共感というか、そういうものが違ってくるんじゃないかなあ。この映画の役者さん達に何も文句はないどころか、二度見てしまうほどよかったのですが、もしも若い役者バージョンの「王妃マルゴ」があったら見てみたいとも思います。

Copyright (c) 2008 Niko. All rights reserved.

These art works on this page are in the public domain.
*Portrait of Marguerite de Valois, oil on wood after Francois Clouet.
*Portrait of Henri IV de France.
*Portrait of Catherine de Medicis.
*Portrait of King Charles IX of France by Francois Clouet
*Portrait of Henri III of France.